最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)694号 判決 1966年1月21日
上告人
木下重雄
右訴訟代理人
岡田実五郎
同
佐々木
同
寺沢平八郎
同
溝呂木商太郎
同
真野毅
被上告人
広瀬清信
右訴訟代理人
花岡隆治
同
斎藤兼也
同
田宮甫
同
向山義人
同
鈴木光春
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人岡田実五郎、同佐々木の上告理由第三点について。
民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべく、債務に履行期の約定がある場合であつても、当事者が、債務の履行期前には履行に着手しない旨合意している場合等格別の事情のない限り、ただちに、右履行期前には、民法五五七条一項にいう履行の着手は生じ得ないと解すべきものではない。
しかるに、原判決は、売買代金の提供が民法第五五七条に定める売買契約の履行の着手となるためには、その当時履行期が到来していることを要するものと解すべきであるとし、履行期到来の立証がない以上、履行の着手があつたとする上告人の主張は理由がない旨判断して上告人の本訴請求を排斥するものであつて、原判決の右判断は、民法第五五七条一項の解釈適用を誤まり、ひいて理由不備の違法をおかしたものといわざるを得ない。論旨は理由がある。そこで爾余の論旨に対する判断をまつまでもなく原判決は破棄を免かれず、更に審理を尽させるため、原審に差し戻すべきものとする。
よつて民訴法第四〇七条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)